ふなばし動物医療センター かつまペットクリニック

KATSUMA PET CLINIC

犬の白内障についてお話します

白内障という病気は、多くの方がご存知の、特にご年配の方にとってはごく身近なありふれた病気の一つと言えるでしょう。白内障は眼の中でカメラのレンズのような働きをしている〝水晶体〟のタンパク質が濁ることで起こります。タンパク質は濁ると白く変質し、再び元の状態に戻ることはありません。
 濁りが生じる原因は、加齢による酸化や紫外線・外傷・衝撃などによる外的ストレス、アトピー性皮膚炎や糖尿病によって引き起こされるものなど様々ですが、人間の場合、最も多いのは加齢によるものです。老人性白内障は50代で40%程度、80代ではほぼ100%の発生率と言われており、皆さんもご自身やご家族等の体験を通じて実感されていることと思います。白内障は年を重ねれば誰もが経験するであろう病気であり、また、「日帰り手術」で簡単に治療できるというようなイメージも定着しているため、病気というよりは老化現象として捉えていらっしゃる方も多いかもしれません。

犬の白内障も同じ?ちがう?

さて、犬の場合はどうでしょうか。人間の白内障と同じだと思われますか?
 犬の白内障には人間と異なる点が多くあり、その違いを知っていただくことがまずは治療や早期発見の第一歩となります。人間の白内障に対するイメージや先入観をそのまま犬にあてはめて考えるのは根本的に無理があり、また危険なことでもあります。
違いその1
遺伝要因▶白内障になりやすい「犬種」があります
そもそも犬には白内障になりやすい犬種というものがあります。
アメリカンコッカースパニエル、ボストンテリア、イタリアングレーハウンド、ビションフリーゼ、トイプードル、ミニチュアピンシャー、ダックスフンド、ヨークシャーテリア、ジャックラッセルテリア、柴犬、チワワ、ミニチュアシュナウザー などが好発犬種とされています。
当院で白内障手術(450症例以上)を行ってきた犬種を多い順に挙げますと
1位 トイプードル
2位 柴犬
3位 雑種
4位 チワワ
5位 ジャックラッセルテリア
となっています。該当する犬種を飼われる場合は、若齢のうちから定期的に眼科検診を受けることをおすすめします。トイプードルなどは1歳からチェックを始めた方が安心です。
違いその2
発症年齢▶犬の白内障の多くは「若年性」です
犬の白内障は発症年齢で次の3つに分類することができます。
先天性 : 生まれた時から
若年性 : 6歳未満で発症
加齢性 : 6歳以上で発症
人間の白内障は7割が加齢性ですが、犬の場合はむしろ若年性が多く見られます。
一般的には、高齢になって眼が白くなる症状が出ている子を見て「白内障は年を取ったらなるもの」というイメージをお持ちかもしれません。しかし、実は6歳以前に発症しており、年を重ねて症状が進行してから初めて気づくというケースも珍しくありません。
実際に当院ではこれまで450症例以上の白内障手術を手がけてきましたが、先天性は1例だけで、全体の7割が若年性、残り3割が加齢性です。
違いその3
進行速度▶「若年性」は1週間で重症化するケースも
白内障は、水晶体の濁りの程度により4つのステージに分類され、段階を経て進行していきます。しかし若年性白内障の中にはわずか1週間程度で一気に成熟期まで重症化してしまうケースもあり、その場合はブドウ膜炎などの合併症を引き起こすことが多いので特に注意が必要です。ブドウ膜炎とは前眼房・虹彩などの炎症のことで、痛みにより眼をショボショボさせたり、結膜の充血などが起こります。白内障でというよりはそういう症状で来院され、結果的に白内障が発見されるケースもよくあります。
<ステージ分類>
点眼薬やサプリメントによる予防
初発期
水晶体全域の10〜15%が混濁している状態です。
未熟期
水晶体全域の15%以上が混濁している状態です。
手術適応
成熟期
水晶体の混濁が水晶体全域に達した状態です。急速な白内障の進行では水晶体が膨化することが多く、水晶体嚢が破裂した場合には重度のぶどう膜炎を引き起こします。
過熟期
水晶体たんぱく質が液化し、融解した状態です。液化した水晶体たんぱく質は眼内へ漏出し、たんぱく質起因性ぶどう膜炎によって網膜隔離、緑内障を続発することがあります。
違いその4
合併症率▶合併症が起きる確率は犬の方が100倍高い
犬の眼は非常にデリケートなため、術後に合併症が発症する率が高いという事実があります。人間の場合、合併症が起きる確率は1,000件に1件の割合(0.1%)ですが、犬の場合は10件に1件(10%)です。
白内障の手術をして視力を取り戻せても、後で合併症が出てくる可能性が一定程度あることを予め認識しておく必要があります。
合併症は「薬」でコントロールできる場合もあれば、「手術」が必要になる場合もあります。そのどちらも難しい場合は最悪失明してしまうこともあります。実際、手術の翌日に網膜剥離を起こして残念ながら失明してしまったケースもありました。
犬の白内障手術は人間に比べて合併症リスクが高いこと、合併症を発症した場合はさらに術後のケアが大変になること、その二つをご理解いただければと思います。
違いその5
発症要因▶糖尿病になるとほぼ100%白内障を併発
犬が糖尿病になるとほぼ100%の確率で白内障が起き、しかも進行が早いという特徴があります(糖尿病性白内障)。犬の白内障にはこのような糖尿病や甲状腺の機能低下などいわゆる代謝異常による〝代謝性〟のもの、前述のブドウ膜炎のような他の病気が引き金となって起きる〝続発性〟のもの、ケガによる〝外傷性〟のものなどがあります。アトピー性皮膚炎によって眼のまわりを慢性的にこすっているような場合、その物理的刺激により発症するケースもあります。
―以上、犬の白内障と人の白内障の違いについて、まずはお話させていただきました。
次は、白内障について皆さんから日頃よくいただく質問にお答えしていきます。
<眼の構造と白内障>
眼はレンズの役割をする水晶体が光の屈折を調節することで網膜に像を映し出しています。水晶体は水とタンパク質からなる柔軟な構造ですが、タンパク質が固くなると白濁し、その部分は光を透過できなくなります。白濁の度合いが進むとやがて完全に視力が失われます。

白内障Q&A

白内障かどうか自宅でチェックする方法はありますか?
飼い主様が日常生活の中で気がつくか、発見できるか、ということで言いますと、ステージ1・2(初発期・未熟期)の状態ではまず無理でしょう。肉眼でいくら観察しても白内障の兆候は見えません。普通、飼い主様が気がつく異変としては「眼が白っぽく見える」や「歩くと物にぶつかる」「ボールを投げてあげても探せなくなった」などがありますが、この時は既にステージ3(成熟期)程度まで進行しています。
早期発見には、眼科診療をおこなっている動物病院で検査を受けるほかありません。病院によっては健診コースの中に組み込まれてる病院もありますし、もちろん白内障検査のみでも受けられると思います。当院では健診のプレミアムコース(わんにゃんドック)で白内障および緑内障のチェックをおこなっておりますので、定期的な健康管理の一環としてご活用いただければ安心かと思います。
猫も飼っているのですが、猫も白内障になりますか?
猫も白内障になります。しかし、犬と比べると圧倒的に数が少ないです。
犬と猫がかかる眼の病気のうち、最も多いのは角膜炎・結膜炎ですが、犬の場合、角膜炎・結膜炎に次いで多いのが白内障です。一方、猫は、結膜炎の割合が犬の2倍近くありながら、白内障は犬の20分の1程度しかありません。白内障は犬に多く見られる眼科疾患と言えます。
引用:アニコム家庭どうぶつ白書2018 犬における眼の疾患の内訳3-3-46、
猫における眼の疾患の内訳3-3-47
白内障を予防することはできますか?
発生原因をできるだけ遠ざけることで発症を抑えるということはある程度可能だと思います。たとえば強い紫外線の下に長時間居させない、ケガを誘発するような接触トラブルを回避する、抗酸化作用のある食品やサプリを与える、などです。
残念ながら白内障には予防薬も治療薬もありません。あるのは進行を遅らせることができる薬だけです。ですから白内障は、いかに早く見つけ、進行を遅らせるための手を打つか、ということに尽きるのです。
白内障の治療法にはどんなものがありますか?
ステージ1・2(初発期・未熟期)▶点眼薬とサプリで進行を遅らせることが治療になります。
点眼薬 : タンパク質の変性を防止するピレノキシンという点眼液を用います
サプリ : 抗酸化作用のあるアスタキサンチン等を主成分とするサプリです
手術の必要はありません。
ステージ3・4(成熟期・過熟期)▶失われた視力を取り戻すために、白濁して固くなったタンパクを手術で乳化吸引してから人工レンズを挿入します。手術以外に治療法はありません。手術をしても、しなくても、合併症のリスクは高いです。
手術するか、しないか、大きな選択に自信がありません…
100%成功する手術というものが存在しない以上、想定されるリスク等についてよく考えた上で、その子とご家族にとって納得できる結論を導き出す以外にありません。最良の選択をしていただけますようお手伝いいたしますのでご相談ください。
手術する
メリット
・再び見えるようになる
・元気になり、活発に行動できる
デメリット
・全身麻酔のリスクがある
・術後の管理(点眼やケア)を伴う
・合併症のリスクが高い
・定期的に検査のための受診が必要
・手術費用がかかる
手術しない
メリット
・手術・入院・通院の負担がない
・費用がかからない
・麻酔リスクがない
・術後管理が必要ない
・高齢の子の体に負担をかけずに済む
デメリット
・手術しないことで合併症のリスクがさらに高まる
・重度の合併症が起こると失明してしまう
合併症について具体的に教えてください。
白内障はステージ3まで進行すると、手術をしても、しなくても、合併症のリスクが高くなります。合併症にはぶどう膜炎、緑内障、網膜剥離、水晶体脱臼などがあります。
ぶどう膜炎
前眼房・虹彩の炎症で、強い痛みを伴います。感染しやすいので注意が必要です。
緑内障
眼房内の水分の循環が妨げられることで眼圧が上昇し、視神経や網膜に障害が出ます。
網膜剥離
眼の奥の網膜が脈絡膜(眼に栄養を運ぶ役割)から剥がれることで急性に失明します。
水晶体脱臼
水晶体が本来の位置からはずれてしまった状態。視力障害のほか、緑内障や網膜隔離を併発しやすい状態になります。
白内障を放置すると、どうなりますか?
失明するだけでなく、眼球の摘出も避けられなく可能性が大きくなります。水晶体が縮んだり溶けたりするなど組織変性が生じ、感染症など様々な合併症を引き起こし、最終的には眼がつぶれてしまう状態(眼球癆・がんきゅうろう)に至ることもあります。

白内障検査の流れ

流れ1
細隙灯(さいげきとう)検査
瞳孔を開かせる薬(散瞳剤)を点眼し、30分後にスリットランプと呼ばれる細い光を眼に当て、角膜や水晶体を観察する検査をおこないます。肉眼では確認できない微細な病変を観察できるので、早期の白内障でも発見することができます。
白内障が早期(ステージ1・2)であれば・・・
点眼薬とサプリで進行を遅らせます。
白内障が進行(ステージ3)していれば・・・
手術が可能かどうかを判断するために、
病歴や薬剤投与歴をうかがうとともに、下記の眼科検査をおこないます。
流れ2
眼圧測定
点眼麻酔を滴下した後、トノペンという眼圧測定器を用いて眼圧を測ります。
数秒で済みます。
血液検査
血液生化学検査、完全血球検査、血液凝固系検査をおこないます。
エコー検査
網膜剥離の有無、硝子体、水晶体の状態を超音波を用いて確認します。
検査の結果、手術適応となりましたら、飼い主様ご家族と充分な話し合いをおこない、ご理解ご納得をいただけましたら手術へと進みます。 院長