かつまペットクリニック

KATSUMA PET CLINIC

膝蓋骨脱臼についてお話します

犬に多く見られる筋骨格系の病気の中で、最も身近な病気の一つと言えるのが膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)です。膝蓋骨とはいわゆる〝膝のお皿〟のことで、英語ではpatella、膝蓋骨脱臼は patellar luxationとなりますが、よくある病気のため「パテラ」の通称で呼ばれています。
膝蓋骨は、靱帯(じんたい)と腱(けん)に連結した形で膝の前面中央に位置しているのが正常な状態です。膝蓋骨は膝頭として、向きは正面を保ちながら、関節を曲げ伸ばしする際は〝滑車〟のようになめらかに上下します。しかし、何らかの原因によりその軌道から外れてしまうことがあり、その状態を膝蓋骨脱臼といいます。膝蓋骨脱臼は、内側に外れると内方脱臼、外側に外れると外方脱臼と区分され、傾向として内方脱臼は小型犬に、外方脱臼は中型・大型犬に多く見られます。

増えている膝蓋骨「内方」脱臼

日本では近年、住宅事情や高齢化等の理由から小型犬を飼われるご家庭が多くなったため、膝蓋骨内方脱臼の症例数も多くなっている現状があります。当院でもその傾向が顕著で、9対1程度の割合で圧倒的に内方脱臼が多くなっています。
小型犬は成長段階で大腿骨と膝の内側の筋肉群との張力バランスに不均衡が生じやすい傾向があるといわれており、その場合は成長とともに徐々に(脱臼が)進行します。初期の場合は痛みもないことが多く、痛がる様子等を見せた時には既に重症度が増しているケースが多くあります。
基礎知識①
膝蓋骨脱臼になりやすい「犬種」があります
内方脱臼
チワワ、ポメラニアン、トイ・プードル、パピヨン、ヨークシャテリア
外方脱臼
ミニチュアダックス、大型犬
基礎知識②
犬種以外にも脱臼の原因は様々です
脱臼は、①のように遺伝的になりやすい骨格構造を持っている以外にも、先天的に膝関節の骨や周囲の筋肉・靱帯に異常があることで発症するケース、衝突や高所からの落下など瞬間的に強い外力が膝にかかることで起こるケース、成長ホルモンの分泌障害や食べているフードの成分による栄養障害で引き起こされるケース、など様々あります。
基礎知識③
そもそも膝関節とは?
関節は、股関節や肩関節などを考えていただくとおわかりいただけるように、骨と骨が凹凸の関係できれいに収まることで安定と可動が可能になっていますが、膝関節は例外です。
膝関節は大腿骨(太もも)・脛骨(すね)・膝蓋骨という3つの骨から成っていますが、大腿骨も脛骨も共に骨端は凸形で、骨同士で支え合うことができないため、コラーゲン主体の繊維組織である靱帯や腱に依存しています。膝蓋骨もまた靱帯(膝蓋靱帯)と腱(大腿四頭筋腱)に依存しており、さらに大腿四頭筋ほか周辺の筋肉と連動することで、歩く・走る・跳ぶといったダイナミックな行動変化に対応できる構造になっています。
膝という関節は動物の体の中で最も複雑な構造の関節であると言えます。

膝蓋骨脱臼のしくみ

膝蓋骨は大腿骨前面中央を縦方向に走る〝溝〟に沿って、滑車のように上下します。この軌道から外れ、膝蓋骨が溝の外に落ちてしまった状態を脱臼、溝を乗り越えるまではいかないものの軌道からズレて不安定になった状態を亜脱臼と言います。
脱臼すると、膝蓋骨に付帯する靱帯・腱に引っ張られる形で大腿骨や脛骨にも捻れが生じます。また、大腿骨と脛骨を連結している4つの靱帯(前十字靱帯、後十字靱帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯)にも大きな負荷がかかります。脱臼を繰り返していると歩行や日常動作に支障が出るだけでなく、次第に痛みがひどくなり、関節炎や前十字靱帯断裂など新たな病気を引き起こすリスクが高まります。
正常
脱臼
脱臼するとこんな症状が見られます
軽度 重度
  • 時々後ろ足を片方挙げてスキップするように歩く
  • 寝起きに後ろ足を挙げたり伸ばそうとしたりする
  • 散歩をあまり喜ばなくなる、長い距離を歩けなくなる
  • 歩いている時や抱っこしようとすると突然キャンと啼く
  • 膝からパキパキと音が聞こえる
  • 足を引きずる、痛がる、歩けなくなる
上記症状から膝蓋骨脱臼が疑われる時は、「跛行(はこう)検査」と整形学的な「触診」で重症度の分類を行い、「レントゲン検査」で膝関節の状態を精査します。
跛行検査
立ち止まっている時と歩いている時の姿勢(歩様)を比べながら動きを観察し、脚の異常を確認します。
触 診
基本的な整形学的検査です。獣医師が手を使って骨・関節・筋肉・靱帯・腱の状態を探ります。
レントゲン検査
膝関節の状態をX線画像で詳しく調べます。手術が適応となる場合は、術前計画のための計測にも用いられます。
【重症度分類】
脱臼は4つのグレード(段階)に分類されます
脱臼は物理的な現象であり、外れた膝蓋骨を整復する治療法は手術以外にありません。手術はグレード2以上で適応となります。
グレード1
膝蓋骨は正常な位置にあり、足を伸展させて膝蓋骨を指で押すと脱臼するが、手を離すと元に戻る。
初期段階のため、普段は症状がなく、激しい運動をした後などに症状が現れることがあります。
グレード2
膝関節は不安定で、膝蓋骨は脱臼したり、元に戻ったりしている。脱臼は指で押すと元に戻すことができる。
日常生活に支障はありませんが、このまま年数を重ねていくと骨の変形が進み、膝蓋骨を支える靱帯も伸びてしまい、グレード3へ進行します。
グレード3
膝蓋骨は常に脱臼状態にあり、指で押せば元に戻るが離すとすぐにまた脱臼する。
この段階になると、多くの場合、膝関節を曲げたままで歩こうとするので跛行(はこう~引き摺り歩き)が見られます。大腿骨や脛骨の変形も目立ってきます。
グレード4
膝蓋骨は常に脱臼状態にあり、指で押しても元に戻らない。
大腿骨や脛骨の変形がさらに重度になり、患肢を伸展することができなくなります。
グレード1、グレード2と診断され「手術をしない」選択をされた場合は下記の内科的・保存的治療を行います。
  • 体重管理~関節への負担を軽減
  • 安静~関節への負担を軽減
  • 薬物療法~抗炎症剤、鎮痛剤、サプリメント(関節炎予防)
  • 環境配慮~滑りやすい床など生活環境の見直し

膝蓋骨脱臼整復手術

膝蓋骨脱臼の整復は、膝関節の複雑な構造と症状の多様性から、複数の術式を組み合わせ、その子に最も適した方法を考案して行う必要があります。
当院では「Ⓐ滑車溝形成術」と「Ⓑ脛骨結節転移術」を組み合わせた手術を行っておりますが、重度の場合は筋膜や筋肉を転移(位置を付け替える)させるなどさらに別の方法も併用することがあります。
若齢犬の場合
2歳以下の若齢犬で症状がグレード2以上の場合、重症化を防ぐために手術をおすすめしています。脱臼は放置していると症状が進行するだけでなく、患肢をかばうように歩くことで反対側も過負担によって変形したり、関節炎になったり、脱臼したりします。脱臼は時間経過とともに骨と関節を変形させ、コラーゲン繊維組織である靱帯も年々柔軟性が失われていくため、今はまだ足を引きずる程度でも、年を重ねる毎に症状は重くなり、ついにはまったく歩けなくなってしまうケースが多々あります。
高齢犬、大型犬、肥満の犬等の場合
体力や合併症、術後ケアへの考慮が特に必要な場合、また、靱帯などの組織が弱くなっていることで整復後の安定が見込めない場合などは手術をおすすめしておりません。
A滑車溝形成術
脱臼する膝関節では、膝蓋骨が大腿骨の溝の上を上下動するための溝の形成が不十分で浅くなっているか、もしくはほとんど溝がない場合もあります。
滑車溝形成術では大腿骨の溝にあたる部分の骨を楔(くさび)状もしくはブロック状に切除して深くします。
B脛骨粗面転移術
成長期に内方脱臼が起きると、膝蓋骨と靱帯に引っ張られる形で脛骨も内側に捻れます。その状態で成長すると、脛骨の前面が内側を向いた状態で定着してしまいます。そのままで脱臼を整復すると今度は脛骨が外側に捻れてしまうため、そうならないように脛骨上の連結ポイントを外側に移動してピンで固定する手術です。
膝蓋骨脱臼手術前
膝蓋骨内方脱臼により患肢は内旋し湾曲しています。
膝蓋骨脱臼手術後
膝蓋骨内方脱臼を整復したことにより患肢の内旋は矯正され、真っ直ぐになっています。
膝蓋骨脱臼整復手術は、成長期かどうかやグレードによって再発の可能性もあり得ます(当院での再発率は5%程度です)。
術後は定期的な診察と検査で経過観察をしっかりおこない、再発チェックをしていくことが重要です。